Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

       “春一番”
 


うぃきせんせえによれば、
春一番というのは、
立春から春分の間に初めて吹く
南寄り(東南東から西南西)の強い風のことだそうで。
日本海を進む低気圧へ、太平洋側の高気圧から秒速8m以上の風が吹き、
それにより前日よりも気温が上昇していること…が目安なんだとか。
これらはそうそう厳密な値ではないけれど、
それでも、風速が微妙に満たなかったり、期日が完全に遅れてしまったりして、
結果として、春の嵐は起きても“春一番”の観測は“無し”とされる年度もある。
まま、こういうのは感覚の問題なので、
公的には認められてなくとも、
あ、これがそうか、とか、あの日のがそうかと、
そうやって自分の肌合いで把握するのが一番なんじゃあなかろかとvv

 「春一番と“一番”を懸けてみました…ってか?」

いやあの、そんなつもりは……。




       ◇◇◇



相変わらずにおっかない、
あばら家屋敷の術師様こと、神祗官補佐様。
年明けからこっちの厳寒には、
恐れ多くもお空へ向けて、文句の言い通しだったけれど。
さすがにそろそろ、厳しい寒さは緩んで来たせいか、
朝っぱらから しかめっ面…という日は減りつつある模様。

 「そうは言っても、
  油断していると肌寒い日もまだまだありますけれど。」

あと、凍るような寒さこそ遠のきながらも、
いきなりびゅうっと強い風が吹き付けるので。
書き物が飛ばされただの、
干してた大根や魚の開きが、
グルングルン揺れまくった挙句に落っこちただの、
思わぬ悪戯に遭いもして、

 「あっ。」
 「はや〜〜っ。」

思わぬものが庭先まで飛んで来ることもしばしばで、
庭に出ていた小さな仔ギツネ坊やのふくふくのお顔へ、
どこからか ひらんと飛んで来た咒弊がかぶさり、
隠してた大きなお尻尾が
ぽんっと現れてびっくりということも結構あったりし。

 「ウチの敷地のは、結界の咒ばかりだから。
  触れて倒れるようなことは あんめぇがの。」

それでも、どこかの屋敷跡へ魔物封じに張ったのが、
どんな拍子にか剥がれて
こっちへ飛んで来ないとも限らねぇよななんて。
人へも妖異へもおっかないことを ぺろっと言って、

 「そんなぁ〜。」

そんなことになったらば、
封じたはずのおっかないのが市中を徘徊しちゃうじゃないですかと。
陰陽師としてはどうかと思うものの、
それでもまま、
書生の坊やが 大きな眼
(まなこ)をうるうるさせて
魔物を怖がる心情は判るとして。

 「それってホントか?」
 「何でお前がそうまで慄くかな。」

今更 封印されそうで困るのか、と。
いかにも呆れたように目許を眇める蛭魔に、
本当かと詰め寄るようにして確認を取るのが、
選りにも選って、蜥蜴の総帥様なのが……
お約束じゃああれ、
確かにいろいろと突っ込みどころだらけな反応であり。
何でもないときはその精悍さも頼もしいだけ、
ゆったり鷹揚に構えておいでの彼だというに、

 「だってよ、そんなもんが市中のところかまわず舞い飛んでで、
  しかもしかも封印の務めの最中に俺へ張り付いたら、
  お前ンことは誰が守るんだよっ!」

こんな一大事が他にそうそうあるものかと、
三白眼を吊り上げて、
今まさにその封滅仕事の最中であるかのような懸命さで、
金髪痩躯のうら若き術師殿を掻き口説く総帥様であったれど、

 「自分で守るから心配要らねぇぞ。」

何ともすっぱりした即答で、
葉柱の立つ瀬がないよな応じをするのはいつものことだが、

  それへ加えて、と

そのお言いようへは
俺への無礼がもう一つ挟まれてんだがなという方向、
実はこれでも静かに怒っておりました…な、お館様だったらしく。

 「俺が封じて回った邪妖らが、
  こんな大風程度で
  ほいほい解放されっと思っとるのか、お前らわよっ!」

今の今、
役職のみならず同業者でもあられる武者小路さんチ辺りで
ただならぬ級の妖気をたんと探知されたかも知れんぞというほどに。
鋭角な眼差し、カッと見開き、
無礼千万な連中へ一喝食らわした、
今年度最強の 邪妖様…もとえ、術師様。

 「えっとぉ……。」
 「いや、そういう意味では…。」

もはや伝説になってるよな古い時代の魔物は知らぬが、
ここ近年の暴れ者らは、
おっかない級のものであればあるほど、
こちらの彼の手になる封印なり成敗なりを受けているがため。
それらが迷い出たらどうしますかと怖がったり、
封印の咒弊が剥がれたら 以下同文…というのを案じるということは、
成程、彼の手腕へ疑いをもったということにも成りかねぬ。

 「俺が封じた訳じゃねぇ小者へも
  おっかないと思うのも問題大有りだぞ、セナちび。」
 「は、ははははひっ。」

仰有る通りでございますと肩をすぼめた坊やはまだ、
その一言でお説教も終わりだからいいとして。

 「くうちゃん、こっちにおいで。」
 「うや?」

どこから飛んで来たのやらな、
悪戯者通行禁止の咒弊をはがしてもらいはしたものの。
まだ仕舞ってない、
本人の総身ととっつかっつな大きいお尻尾をどうしたものかと。
とりあえずその場でぐるぐると回って追いかけっこしていた、
小さな仔ギツネ坊やをよいしょと抱え上げ。

 「そ、それではっ!」

自分が寝起きしている小部屋へ、
書生くんが大急ぎで撤退したのを皮切りに、

 「大体お前は、
  いつもいつも 人んことを過小評価しやがってよっ!」

 「そういう意味じゃねぇだろがっ!」

 「護衛の必要があるってのは、
  自分より力量が下のもんへ思うことだろうが、おお?」

 「じゃあ何か、俺は一切 案じちゃいかんのかっ!」

 「他への波及を庇うならともかく、
  この俺様へは要らんと言うとるんだっ!」

文言が必ず倍返しになってる時点で、
総帥様が押されまくりなのは明白な口喧嘩。
心配して叱られてしまうなんて、何だか不条理な気もするけれど。
そこはそれこそ
ご自分の能力に強い自負をお持ちなお館様だからしょうがない。

 “でもなあ。
  まだ寒い朝晩は、
  葉柱さんが戻って来られないと不機嫌でおいでなのになぁ。”

そういうのは
“護ってもらってる”の勘定に入ってないのかなぁと、
微妙なことを思いつき。
でもでも、それは訊かない方がいいみたいというの、
経験則から察しておいでのセナくんで。


  とりあえず
  春はもうすぐお目見えらしいです……。




  〜Fine〜  12.03.31.


  *近畿地方も、
   実は“春一番”の報は出てなかったんじゃなかろうか。
   そして今日は今日で、
   どこで唸っているのやら、
   大風がごごぉうと不気味に唸りつつの
   生暖かい雨になっとります。
   春の嵐ってやつでしょうかね。
   せっかく菜園の一角を
   プライベート砂場に改装中だったのになぁ。(笑)


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